令和8年6月から、福祉・介護職員等処遇改善加算に新しい区分「Ⅰロ・Ⅱロ」が始まりました。ポイントは、要件に「生産性向上の取組」が入ったこと。業務支援ソフトや情報端末の導入も、その取組の一つに数えられています。「うちは何をすればいいの?」という児童発達支援・放課後等デイサービスの管理者の方に向けて、制度の骨子と、現場でできる準備を整理しました。※本記事は制度の概要をわかりやすくまとめたもので、加算の取得を保証するものではありません。要件の詳細は必ず指定権者にご確認ください。
処遇改善加算に「ロ」区分ができた背景
令和8年6月施行の報酬改定で、福祉・介護職員等処遇改善加算が拡充されました[1]。柱は大きく2つです。ひとつは、障害福祉の従事者に幅広く月1.0万円(3.3%)の賃上げを実現するための措置。もうひとつが、生産性向上や協働化に取り組む事業者への上乗せ(月0.3万円・1.0%相当)として新設された上位区分「Ⅰロ・Ⅱロ」です[1]。
背景にあるのは、「人材確保のためには賃上げが必要。ただ、それを続けるには、現場の業務そのものを効率化していく必要がある」という考え方です。賃上げと業務改善をセットで進める事業所を、加算率の上乗せで後押しする——それがロ区分の狙いといえます。児童発達支援・放課後等デイサービスの加算率(令和8年6月以降)は次のとおりです[2]。
| サービス | Ⅰイ | Ⅰロ | Ⅱイ | Ⅱロ |
|---|---|---|---|---|
| 児童発達支援 | 15.2% | 15.8% | 14.9% | 15.5% |
| 放課後等デイサービス | 15.5% | 16.1% | 15.2% | 15.8% |
イとロの差は0.6ポイント。加算率は総報酬(処遇改善加算を除く加減算後の単位数)に掛かるため、事業所の規模によっては見過ごせない差になります。では、ロ区分を算定するには何が必要なのでしょうか。令和8年度の特例要件として、次の「ア・イのどちらか+ウ」を満たすことが要件とされています[3]。
- ア)生産性向上の取組を5つ以上行っていること(うち⑱「現場課題の見える化」と㉑「業務支援ソフト・情報端末の導入」は必須)
- イ)社会福祉連携推進法人に所属していること
- ウ)加算Ⅱロ相当の加算額の2分の1以上を月給で職員に配分すること
多くの児発・放デイにとって現実的なルートは「ア+ウ」でしょう。そこでカギになるのが、アに登場する「生産性向上の取組」です。
「生産性向上の取組」とは——例示されている取組の一覧
生産性向上の取組は、職場環境等要件のうち「生産性向上のための業務改善の取組」として、⑱〜㉔の7項目が示されています[3]。現場の言葉に直すと、おおむね次のような内容です(正確な文言は一次資料をご確認ください)。
- ⑱ 現場課題の見える化【必須】——業務時間の調査などを行い、どの業務に時間がかかっているか、現場の課題は何かを洗い出す
- ⑲ 5S活動——整理・整頓・清掃などで職場環境を整える
- ⑳ 業務手順書の作成・記録様式の工夫——仕事のやり方や書き方を標準化する
- ㉑ 業務支援ソフト・情報端末の導入【必須】——記録・情報共有・請求業務への転記が不要なソフトや、タブレット・スマートフォン等の情報端末を導入する
- ㉒ インカム・ビジネスチャット等の導入——職員間の連絡・情報共有を速くする
- ㉓ 役割分担の明確化——掃除や準備などの分担を見直し、職員が支援に集中できるようにする
- ㉔ 他事業所・法人との協働——事務の集約や共同購入など
この中から5つ以上、しかも⑱と㉑は必ず含めて取り組むこと——それがアの要件です。なお、ア・ウは令和8年度中の対応を「誓約」する形でも算定できるとされていますが、年度末の実績報告書で実施状況が確認され、誓約したのに実施していなかった場合には加算を返還するしくみも設けられています[3]。「とりあえず誓約だけしておけばよい」という制度ではない点には注意が必要です。
業務支援ソフトの導入は、どう位置づけられるのか
7項目のうち、児発・放デイの管理者の方からよくご質問をいただくのが、必須項目の㉑「業務支援ソフト・情報端末の導入」です。資料では「業務支援ソフト(記録、情報共有、請求業務転記が不要なもの)、情報端末(タブレット端末、スマートフォン等)の導入」と示されています[3]。日々の記録や情報共有、シフト作成のような毎月の定型業務をソフトに任せて、職員が支援そのものに使える時間を増やす——そのための整備が想定されているといえます。
処遇改善加算(Ⅰロ・Ⅱロ)の要件には「業務支援ソフト・情報端末の導入」等の生産性向上の取組が含まれます。クロウ君の導入はその整備の一つに該当し得ます。
※加算の取得を保証するものではありません。要件の詳細は指定権者にご確認ください。
あわせて押さえておきたいのが、もう一つの必須項目⑱「現場課題の見える化」との関係です。たとえば「シフト作成に毎月何時間かかっているか」を記録しておくことは、⑱で例示されている業務時間調査を進めるうえでの材料になります。ソフトの導入(㉑)と、導入前後の時間の見える化(⑱)は、セットで考えると取り組みやすい項目です。
児発・放デイの現場で、まずできる3つの準備
「うちも取り組んでみよう」と思ったとき、いきなりソフトの契約から始める必要はありません。お金をかけずに今日から始められる準備を、順番に3つご紹介します。
- 業務の棚卸しをする。管理者・児発管・現場職員の仕事を書き出し、「支援そのもの」と「それ以外(記録・書類・シフト作成・連絡調整など)」に分けてみます。⑱の課題の洗い出しは、ここが土台になります。
- 時間を記録する。棚卸しした業務の中から、時間がかかっていそうなものを2〜3個選び、実際にかかった時間を1か月ほど測ってみます。数字が残っていれば業務時間調査として説明しやすくなり、改善に取り組んだあとの前後比較もできるようになります。
- ソフトを試してみる。㉑に対応しうる業務支援ソフトを、無料トライアルなどで実際の業務に当ててみます。導入すること自体が目的にならないよう、2で測った時間が本当に減るのかを確かめながら選ぶのがおすすめです。
要件の細かな取り扱いや届出の様式は、自治体(指定権者)によって案内が異なることがあります。準備と並行して、早めに指定権者の窓口や公表資料を確認しておくと安心です。
よくある誤解——「ソフトを入れれば加算が取れる」ではありません
ここは、はっきり書いておきたいと思います。業務支援ソフトを導入しただけで、ロ区分の加算が算定できるわけではありません。理由は次のとおりです。
- ㉑は要件の一部にすぎない。生産性向上の取組は5つ以上が必要で、⑱の「現場課題の見える化」も必須です。ソフトの導入は、その中の1項目です。
- 賃金の配分要件(ウ)がある。加算Ⅱロ相当額の2分の1以上を月給で職員に配分することが求められます。取組だけ揃えても、配分の設計がなければ要件を満たしません。
- 誓約には実績報告が伴う。誓約で算定を始めた場合も、実績報告書で実施が確認され、未実施の場合には返還のしくみがあります[3]。
- 最終的な適否を判断するのは指定権者。個別の事業所が要件を満たすかどうかは、本記事では判断できません。必ず自治体にご確認ください。
だからこそ、「どのソフトを買うか」から入るのではなく、「うちの現場のどの業務に時間がかかっているか」から入るのが、遠回りに見えていちばん確実な順番だと考えています。
まとめとチェックリスト
処遇改善加算の新区分「ロ」は、生産性向上の取組と賃上げをセットで進める事業所を後押しするしくみです。児童発達支援・放課後等デイサービスの現場でまず着手できるのは、業務の棚卸し、時間の記録、そしてソフトの試用という順番の準備でした。最後に、現在地を確認するためのチェックリストを置いておきます。
- □ ロ区分の要件(ア+ウ、またはイ+ウ)のしくみを確認した
- □ 生産性向上の取組⑱〜㉔のうち、いま当てはまるものがいくつあるか数えた
- □ 業務の棚卸しをして、時間がかかっている業務を書き出した(⑱の準備)
- □ シフト作成・記録などにかかる時間を測って記録している(⑱の準備)
- □ 業務支援ソフト・情報端末の導入を検討・試用している(㉑の準備)
- □ 加算額を月給でどう配分するか(ウ)を検討した
- □ 指定権者(自治体)に要件の詳細と届出の様式を確認した
本記事は、令和8年2月18日時点の厚生労働省資料に基づいて制度の概要をまとめたもので、加算の取得を保証するものではありません。その後の告示・通知等で取り扱いが変わることもあります。要件の詳細と最新の情報は、必ず下記の一次資料と指定権者(都道府県・市町村)にご確認ください。
出典・参考資料
- [1] 厚生労働省 障害福祉サービス等報酬改定検討チーム「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」(令和8年2月18日)p.2「処遇改善加算の拡充①」(月1.0万円(3.3%)の賃上げ、生産性向上等の上乗せ月0.3万円(1.0%)、令和8年6月施行) https://www.mhlw.go.jp/content/001680064.pdf
- [2] 同資料 p.3「処遇改善加算の拡充②(単位数)」(児童発達支援・放課後等デイサービスの加算率。加算率は処遇改善加算を除く加減算後の総報酬単位数に乗じる)
- [3] 同資料 pp.4-5「処遇改善加算の拡充③(算定要件等)」「(参考)職場環境等要件(令和8年度)」(令和8年度特例要件ア・イ・ウ、生産性向上の取組⑱〜㉔、誓約・実績報告・返還の取扱い)
- 厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202214_00013.html
- こども家庭庁「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について」 https://www.cfa.go.jp/policies/shougaijishien/shisaku/r8hoshukaitei